道を歩いているとき、足元に咲いている小さな花を見て足をとめた事はありませんか?
「可愛いなあ・・・」
「こんな場所でも、頑張って生きているんだな」
小さな感動を覚えたのもつかの間、私たちは日々忙しく過ごしているうちに、そんな感動もあっという間に忘れてしまいます。
クラフトリンズの林 香織さんは、日常のふとした瞬間を、和紙アクセサリーで表現する作家さん。
その繊細で美しい手仕事はたくさんの方を魅了し、新作を出すたびに即完売するほどの人気ぶりです。
当メディア「素敵なギフト」では、誰かにギフトとして贈りたくなるような、素敵な作品を生み出している作家さんをご紹介しています。
今回は、自分自身や大切な人へのギフトとして選ばれる、クラフトリンズの作品に込めた想いについて、林さんにお話を伺いました。
普段から飾りたくなる和紙アクセサリー
林さんは「クラフトリンズ」という工房名で、長野県で自然に囲まれながら和紙アクセサリーを製作しています。
主に花や雪などの自然をモチーフとし、和紙には地元の伝統工芸品「内山紙(うちやまがみ)」を使用しています。
現在、作品はオンラインで販売されていますが、常に入荷待ち状態。
再販してもわずか数分で売り切れるため、再販のタイミングに合わせてアラームをかけて心待ちにしている方もいるほどです。
作品が届いたお客さんからは「軽くて身につけやすい」という感想のほか、「もはやアクセサリーの枠を超えたとても美しい作品」「使わないときも普段から飾っています」という声もあがっています。
林さんの作品はアクセサリーとしてだけでなく、ひとつの芸術作品として多くの方に愛されています。
製作のきっかけは夫の一言
今や作品に多くのファンがついているクラフトリンズ。
実は活動を始めてまだ2年半ほどしか経っていません。
以前は兵庫県にお住まいだった林さん。
もともとモノづくりは好きだったものの、当時は仕事が忙しく余裕がなかったため、なかなかモノづくりに取り組めなかったそうです。
「昔からビーズで何かを作ったり、絵を描いたりするのが大好きでした。
けれど、それを職業に出来るほどの自信はなかったので、別の仕事をしていたんですよね。
そんなとき、夫が長野の会社に就職することになりました。
もともと自然が好きだったので『長野で大自然ライフが送れる!』と思い、会社を辞めて私もついていきました。
すると、長野の自然に触れているうちに心にゆとりができて、もう一度モノづくりをしたいなと思ったんです」
しばらく気の向くままにモノづくりを楽しんでいたある日、林さんはぽつりとつぶやきました。
「こういうのを作りながら、暮らしていくのが夢だったんだよね」
その言葉を聞いた旦那さんは一言、『やってみていいよ』と言ったそうです。
「夫が『仕事としてやってみたら』と。
それがクラフトリンズを始めた本当のきっかけでした」
実は「クラフトリンズ」の「リンズ」は、林さんご夫婦を指す「林’s」に由来しています。
そこには「クラフトリンズ」の作品が、林さんと旦那さんの2人がそろって初めて生まれるという意味が込められています。
林さんは、背中を押してくれた旦那さんへの感謝を覚えていたいという想いから、その名前をつけたそうです。
「夫がいなかったら、モノづくりはやっていませんでした。
何か困ったことがあったときも、夫が『2人でクラフトリンズやからな』と言って、一緒に考えてくれます」
今や新作のお披露目や、経理はすべて旦那さんが担当されているそうです。
「私はなんでも一人で出来るタイプではないし、お金の計算も苦手なので・・・適材適所ですね」
そう言って笑う林さんからは、クラフトリンズとしての活動を支えてくれる旦那さんへの、感謝の気持ちがあふれていました。
雪の色をした「したたか」な内山紙との出会い
クラフトリンズとして活動することが決まったものの、林さんはアクセサリーに用いるメインの素材を決めかねていたそうです。
いろいろな素材を試す中で、もともと伝統工芸に興味があった林さんは、とくに和紙に注目します。
「和紙で有名な長野県ならきっと何かあるはず・・・」という想いで、長野県の木島平村(きじまだいらむら)にあった手すき和紙工房に足を運びます。
そこで林さんは、内山紙(うちやまがみ)に出会いました。
内山紙は、江戸時代から作られている長野の伝統工芸品。
障子紙として有名な「手すき和紙」で、伸縮性がありとても丈夫です。
林さんはそんな内山紙を「したたか」だと言います。
「光を柔らかく通す内山紙は、薄くて繊細なのに、手に取ってみると見た目からは想像できないほど丈夫でした。
『こんな和紙があるんだ』と感動し、出会った瞬間に心を奪われました」
内山紙のしたたかさの秘密は、色にも隠されています。
和紙は、楮(こうぞ)という植物の黒い皮から作られます。
白い和紙を作るために、通常は塩素にこの黒い皮をさらして漂白するところ、内山紙を作る工程では雪にさらして漂白します。
この「雪さらし」の工程のおかげで、内山紙は柔らかい白色になるそうです。
「内山紙は、漂白剤にさらした布のようなパーンとした白色ではなく、ふかふかの雪や月のような自然な色をしているんですよね。
職人さんが染色した後の和紙も『何色』とは言い切れない絶妙な色になります」
たとえば、下の写真の右側に写る「大和の桜」という作品の花びらには、オレンジがかったピンクのような、なんとも言えない色の和紙が使われています。
同じ「大和の桜」でも、写真の左側に写る新作のものは淡いピンクのような色をしています。
職人さんが染色した和紙が「まさに桜」という色をしていたため、そのまま作品に活かしたそうです。
「私は、職人さんがご自身の感性で染めた和紙も一つの作品としてリスペクトしています。
そのため、和紙の色をそのまま作品に活かすことが多いです。
あくまでも私は職人さんの作品に手を加えさせてもらっている、という気持ちでアクセサリーを作っています」
上質な和紙を作る職人さんに、日々の製作活動を支えてもらっていると感じている林さん。
「今後、作品を通してより多くの人に内山紙の美しさを知ってもらうことで、職人さんに恩返しがしたい」と考えています。
日常の小さな感動を思い出に
そんな内山紙を使った林さんの作品は、花や自然をモチーフにしています。
ひとくちに花と言っても、林さんが心を動かされるのは、日常のふとした瞬間に出会う花。
図鑑の中やお花屋さんにきれいに並んでいる花ではなく、道端にひょっこり咲いているような花をモチーフにしているそうです。
「日常でそういうお花を見ると、人って少し心が動くじゃないですか。
そういう心が動いた瞬間を、私なりに切り取って作品にしているんです。
また、花以外にも、身の回りの自然を見て心が動く瞬間も作品で表現しています。
たとえば「雪解け」という作品は、溶けた雪が水になる瞬間を表しています。
雪が溶け始めたときに「もうすぐ春が来るな」と感じる、日常の中での感動の瞬間を切り取った作品です。
普段忘れがちな日常の小さな感動をアクセサリーにして、思い出として身につけてもらいたい。
そんな林さんの想いは作品を通してお客さんに届いています。
とても好きな花を、一緒にアクセサリーとして身につけたいと思っていたお客さん。
今までその花をモチーフにしたアクセサリーを探しても、納得できるものを見つけられませんでした。
けれどその方は、林さんの作品を見て「やっと出会えました」と言ったそうです。
「お花がもつ優しい雰囲気が、内山紙だと伝わる。
心が動いた思い出を、アクセサリーと一緒に身につけてもらえるとうれしいです」
自分の魅力を引き出してくれる「相棒」のような作品を目指して
身につける人の心にそっと寄り添ってくれるようなクラフトリンズのアクセサリー。
そんな優しい作品になった背景には、もう一つ理由がありました。
林さんはファッションやおしゃれが好きだけれど、自分に似合うアクセサリーが見つからず、自分に自信をもてない時期があったと言います。
「アクセサリー自体は好きだから買うんですが、つけてみると似合わないと感じたり、痛かったりして、しばらくするとすぐ外してしまっていたんです」
自分に溶け込むように素朴で、でもしっかりとした存在感がある。
そんなアクセサリーがほしいと思っていた矢先に内山紙に出会い、「これなら自分に自信をもてるアクセサリーを作れそう」と思ったそうです。
「つけていて痛いと思ったり、似合ってないんじゃないかと不安に思う気持ちは表情に出ます。
でも和紙で作ったアクセサリーは、軽くてつけている感覚がなく、気にならない。
それに、内山紙の優しい色合いのおかげで顔がパッと明るく見えます。
アクセサリーそのものが目立つというよりは、身につけた人の魅力を引き出してその人を輝かせる、頼もしい『相棒』のような作品を作りたいんです」
「相棒」になってもらうからには、中途半端なものは作れない。
林さんは一つひとつの作品を、まさにお嫁に出すような気持ちで作ります。
「お客さんにお迎えしてもらったときに恥ずかしくないように頑張りなさいよ、と最後の最後までお化粧するような気持ちで細部までこだわります」
葉脈の一本一本が再現され、花びらのわずかな角度まで手が入れられた林さんの作品は、まるで息をしているかのように見えます。
「本当は自然に咲いている花をそのまま身につけたら、それが一番かわいいんですけどね」
林さんの作品は、私たちが子どものころ、校庭に咲くつつじをかんざしみたいに髪に差してみたときのような、ワクワクした気持ちを思い出させてくれるかもしれません。
どんな気持ちもその人の魅力になる
「身につけた人の魅力を引き出すアクセサリーを作りたい」という林さんのこだわりは、人の気持ちを大切にしたいという想いに繋がります。
人が花や自然を見て心が動いた瞬間を、作品で切り取り続けてきた林さん。
今度は、人が誰かを想う「気持ち」を表現することにも挑戦し始めました。
「誰かのことを恋い慕う『焦がれる気持ち』をバラの色で表現した、『焦がれのばら』という作品を作ってみました。
少し切ない気持ちも自分らしさとして身につけることで、その人の魅力が増すと思うんです」
切なさや悲しみのような、少しネガティブに捉えられがちな気持ちも、その人の一部。
否定せずに自分に合う形で受け入れると、その人の魅力を引き出すパーツになるのだと、林さんの言葉から気付きました。
最後に
インタビューを通して、林さんからは終始、ご自身の作品に胸を張って良いと言える自信がありつつも、「あくまでも自分はアクセサリーを身につけるお客さんの黒子」というような謙虚さを感じました。
その姿は、作品自体は目立たずに、身につけた人の魅力を引き出す林さんの作品と重なります。
私たちの日常を彩ってくれる小さな感動や、大切な気持ちを身につけられる林さんの作品。
旦那さんと職人さんという頼りになる「相棒」への感謝とともに、これからも林さんは、人の気持ちに寄り添いながら作品を作り続けます。
お話を伺った作家さん
- クラフトリンズ 林 香織さま
- 長野県で活動中のハンドメイド作家。
2018年6月、夫と二人で「クラフトリンズ」としてアクセサリーの製作および販売を開始。
日常で小さな感動が生まれた瞬間を、花や自然をモチーフにした作品で表現している。
素材に長野県の伝統工芸品「内山紙(うちやまがみ)」を使用したクラフトリンズの作品は、和紙本来の美しさと繊細な作りが多くの人を魅了している。
この記事の制作に関わったメンバー
素敵な商品や作家さんの魅力にスポットライトを当てる、黒子のようなライターを目指しています。『素敵なギフト』編集部に2020年11月から所属し、そのときの気持ちにぴったりはまる言葉や伝え方を日々模索中。誰かが求めている言葉を、求められているときに投げかけられる人になりたいです。
- Twitter:@fujiwara_mido
「素敵なギフト」編集部の勤続2年目女子ライター。日々、大好きな取材や編集に明け暮れていて、とても幸せです。自分が出会った素敵なギフトを、自分のか細い語彙力で紹介していきます。凛とした言葉を奏でられる人に憧れる。
- Twitter:@kamimura_nana